鍵をかけていた記憶。
僕には30年以上、心に鍵をかけている記憶がある。
あまりにツラく、話していない記憶。
僕の周りの、それを知っている人も皆、誰も口にしない過去の出来事。
あの夏、僕の友達は、僕の目の前で死んだ。
僕の実家は前にも話したが田舎で、小さな集落には同級生が、僕とその子のふたりだけ。
いつもふたりで遊んでいた。互いの家も歩いて5分もかからない位置。小さな川を挟んだ向こう側に住んでいた。
小学2年生の夏休み、子供会の旅行で海に行った。最初は皆それぞれにはしゃいでいた。
よく晴れていて、周りにもたくさんの人がいた。
しかし、
「○○が居ない!」
その子のお母さんが急に慌て初めた。
やがて周りの大人たちも事態の深刻さに気付き、必死に探し初めた。
やがて誰かが
「海では、、ないよな」
海に来ていた僕らの旅行と関係のない周りの大人たちも、海に入っていった。
やがて、友達が、海の中から引き上げられ、砂浜に寝かされ、人工呼吸が始まった。
その頃になると、救急車が到着しはじめていた。
何度かの人工呼吸のあと、友達は水を吐いたように見えた。
「水を吐いたぞ!」
誰かが叫んだ。
しかし、友達はピクリとも動かず、みるみる青白くなっていくのを、僕は間近で見ていた。
やがて友達は救急車で運ばれて行った。
僕たちも旅行を中断し、家に帰った。
次の日の夕方、夏休みなのに、僕は学校の制服を着せられた。
親は真っ黒い服を着ていた。
僕は親に手を繋がれ、歩いて友達の家に向かった。
煙たい中、低い声で、怖い歌のようなものが聞こえていて、大人たちは皆、うつむいて泣いていた。
煙の向こうに、ニッコリ笑った友達の写真がこっちを向いていた。
それから僕は、唯一の幼なじみである友達と会うことはなく、しばらくはいつも家の中にいた。
あれから30年以上がたつが、未だに僕は海が怖い。
あれから30年以上たつが、夏の夕暮れ時になると、いつも淋しくなり、あの夏を思い出してしまう。
たぶんこれから先も、あの夏の出来事は、口にすることはないと思う。
30年以上たったんだな。。
あいつは天国で元気にやってるかな。